秋風に吹かれて
異色の読書空間巡り
「全州は伝統文化やビビンバ、韓屋村、韓服体験などでよく知られているが、実は「本の都市」でも有名である。2017年「大韓民国読書大典」が全州で開催されて以来、全州市は「本読む都市、全州」を宣言し、毎秋、「全州読書大典」を開いている。今年も全州寒碧文化館と全州郷校一帯を中心に、「2022全州読書大典」(2022. 9. 30. ~ 10. 2.)が三日間開催される。全州には「本の都市」という名前にふさわしく、読書するのに良いスペースと異色のムードの独立書店や町内本屋、町内図書館、ブックカフェがたくさんある。一部の本屋ではネットワークを作り「町本屋文学賞」といった面白いイベントを開いたり、市内のあちこちには様々なテーマや専門領域に特化した公共図書館ができている。このユニークで革新的な空間が韓国全国の愛読家と読書旅行者を全州に引き寄せる。
まさに読書の季節、「本読む都市、全州」を新しい都市文化のトレンドとして導く
異色で独特な全州の読書空間を訪れよう。
重たい体は軽くなり、空いた心は満たされていくだろう。
韓屋村の中の穏やかな心の憩いの場人と魂と時代を蘇らす本、<暮らしの本屋>
全州市の文化観光においてコアに当たる韓屋村の南側の端、晴烟樓が格好良く風に吹かれている南川橋を渡って全州郷校の方へ向かうと、左側にちっちゃくて可愛い韓屋書店が目に入る。 外観は地味だが、中に入るときれいに並べられた本や絵、可愛らしい小物、自然に似た穏やかでクラシックなインテリアに心を奪われる町内書店の<暮らしの本屋>だ。並べられた本を一冊一冊ゆっくり読みたいと思わせるきれいな空間だ。なぜかここにあるすべての本が私にとって意味がありそうで、「こういう空間で暮らしたい」と思うほど心が安らかになる。このような素敵な空間を作り出した主人のセンスが羨ましくて、労をねぎらいたい。

<暮らしの本屋>は、息苦しい大都会を離れて本屋を開きたいという気持ちで全国を探索した主人のホン·スンヒョンさんが全州に定着して2017年に開いた。本来は徳津洞に本屋兼集いの場を開いたが、町が再開発の対象となり昨年夏、韓屋村へ引っ越してきた。主人は住民と町、地域の活かしに役立ちたいと思い本屋を始め、「暮らし」と名付けたという。
ここでは人文学書籍と芸術書籍、そして童話絵本を主に扱っている。主人と縁のある作家の本をリデザインして展示·販売することもある。地元作家との多様なコラボのために「サリム(暮らし)ブックス」というオリジナルブランドも立ち上げた。


主人の席の裏側にある狭い階段を下りると、半地下(!)にこじんまりとした文房具屋さんがある。手で描いた可愛いイラスト、心を休ませる簡潔な文が刻まれた葉書と手帳、多様な小物が視線を引く。大きなエコバッグを一つ持ってくればよかったと、全種類一つずつかばんに入れて持って帰りたいほど切ない感情にさせる小物だ。
広くない空間だが、たまに地元の作家やアーティストを招いた小規模のブックトークや展示などのイベントの場として使われることもある。旅行雑誌や地元メディアに何度か紹介されたためか、韓屋村内の名所として知られ、多くの観光客が訪れる。ちょうど10月開催予定の読書大典がこの近くの寒碧楼と郷校で開かれるので、大典に訪れる方にはぜひ本屋にも立ち寄っていただきたい。


日当たりの良い秋の午後、韓屋村の散歩がてらに暮らしの本屋に立ち寄って気になる本を一冊選んでみよう。本を開く前から、本屋の隅々に染み込んでいる穏やかさに心と体が癒される。
心に似ていて芸術を含んだ総合芸術空間至るところに芸術がやどる <棲鶴芸術村図書館>
全州韓屋村を背にして全州川橋を渡ると棲鶴芸術村が目に入る。ここは、隅々の路地に沿って小さな工房やギャラリー、ゲストハウス、ロースタリ-カフェ、本屋などが並ぶ静かで懐かしい町だ。この町に最近、芸術特化図書館を掲げた立派な複合文化芸術空間ができた。今年6月に会館した<棲鶴芸術村図書館>である。

ここは全州市が直接運営する町内図書館で、古いカフェ兼展示館だった建物が改造後、図書館と展示館が混じったユニークなスペースに変貌した。既存の建物の独特な構造と野外庭園などの特色は残し、芸術村のアイデンティティをそのまま盛り込んだ。


エノキ洞(入口に大きなエノキが立っている左側の建物)とツタ洞(ツタが盛んに生えている右側の建物)と呼ばれてる、2つが並んでいる建物は2階でつながっている。まるで古い絵をそのまま移したように静かな外観で好奇心と感嘆を誘う。地元の作家が実際に描いた作品が内部に展示されていることもある。
図書館は大きく開放型閲覧室とテーマ別本棚、展示室、野外庭園で構成される。写真や旅行、地域芸術、音楽、美術などのジャンルを意味する「輝く、宿る、染み込む、染まる」という4つの大きなテーマに沿って空間が分けられており、各資料室や展示スペースには芸術関連書籍、ポップアップブック、絵本などの書籍類だけでなくLP、CD、造形物、写真や絵など書物でないコンテンツも多様に構成されている。
スペースに沿ってゆっくり歩いていくと、隅々に地元作家の作品が視線と動線に沿って適切に配置されていることが分かる。一人で静かに読書できるアチックのような余裕空間、子供たちのための創作空間も備えられており、空間を作る過程でどれほど悩んだか分かるような気がする。誰が空間を構想したか問い合わせてみたら、総合芸術家である村長さんが空間の企画と構成を担当されたという。



ツタ洞1階にあるギャラリーでは、地元作家の作品を月ごとに展示する企画展示会が開かれている。9月にはイ·ヒチュン作家の個展「Summer」が開かれており、続いて全州国際写真展、クァク·スンホ作家、ハンスク作家などの招待展が予定されている。
棲鶴芸術村図書館の本は閲覧のみ可能で貸出は不可というので、時間に余裕を持って訪問し本と芸術作品、野外公演を存分に楽しんでみたい。適度に雨が降る日、ここのしっとりとした野外庭園を眺めながら読書三昧にはまればどれほど幸せなんだろう。
- 住所
- 12-1, Seohak-ro, Wansan-gu, Jeonju-si, Jeollabuk-do, Republic of Korea 地図を見る
- 運営時間
- 9:00~18:00(月曜日及び祝日は休業)
古い木、文学の趣、濃いコーヒーの香りの場所文学書店カフカで会いましょう
本と作文、古典と文学を愛する人の空間はどんな姿だろうか。<カフカ>は単に本と飲み物が提供されるありふれたブックカフェではない。 ここでは本当に古くて濃い「文学の香り」がする。

全州映画の街、ホットな客理壇ギルから忠敬路を渡って南に向かうと閑静な旧都心が広がる。 全羅監営の向かい側、みすぼらしい建物の2階にあるカフカは、2013年に作られたという。手作りに見える入口に入りゆっくりと階段を上ると、古い看板や植木鉢、古本、小物があるが、まるでお互いささやきながら話しているようだ。 自分たちが生きてきた過去の時間についてなのだ。
カフェのドアを開けると、素敵なビンテージコンセプトの本棚が視野に入る。取り憑かれたように歩くと古い床が歩くたびにきしむ音を出す。床も自分の存在を知らせたいのだろうか。


書店でありカフェである「カフカ」には詩、小説、エッセイなどの文学書籍と人文学書籍が主であり、本は新刊とおすすめの本、中古本(楽に読んで置いていけば良い)に分かれる。ビンテージ書店らしく、昔のカセットテープやCDを展示·販売するコーナーももうけられている。
この本屋の主人兼バリスタのカン·ソンフンさんは、デビューした作家でありながら作文講師であり、地元の文学活動家でもある。全州の独立書店が集まって作った「全州書店ネットワーク」と「全州町内書店文学賞」を作った張本人だ。2回にわたって行われた町内書店文学賞の受賞作を本にまとめた。面白そうで始めた活動だが、いつのまにか全国から原稿が集まり、毎年参加者数が増えているという。本を販売した収益金は文学賞の賞金として使われるとのこと。
カフカの家具と小物には新品や完全な「セット」のものはない。おそらくどこかで事情のある物を持ってきたり、主人が廃木材を叩いて塗ったりして作ったのだろう。ここには本だけでなくテーブル、椅子、照明、小物など一つ一つがまるで長い旅を終えてここに集まっているように感じられる。物に残された誰かの手あか、歳月の跡により何度も覗き,その裏話が気になる。

古い物、文学的感受性、ビンテージとアナログが好きという人には、ぜひ一度カフカを訪れていただきたい。洗練された華やかな空間が立ち並び、タイムスリップをするような懐かしさとロマンを感じることができるだろう。日差しの当たる窓際で主人の誠意が込められたハンドドリップコーヒーを味わうだけでなく、ここでたびたび開かれる本読みの集いにも参加するに値する。
カフカではただ本を読む行為としての読書ではなく、一つの時空間と遭遇する経験的思惟としての読書を経験できる。 実に魔法のような空間だ。『本は私たちの中に凍った海を割る斧でなければならない』 - カフカ -
近現代的な洗練さが漂う癒しの空間出版社が運営する正統ブックカフェ、チョンドン・ブックカフェ
全州孝子洞の西谷公園に向かい合った静かな住宅街に「話題」のブックカフェがあるという噂を聞いて訪ねた。近現代式家屋の窓枠または木の本棚を連想させる格子型外壁、端麗な書体の看板、素朴な花壇が目を引く。 本好きな乙女心のような感性が漂う外観をしばらく眺める。

中に入ると、外から見た格子型の木の本棚が室内全体の飾りになっている。完全に「本」をよく展示するための装置という気もするが、近現代木造建築物の中に入り込んだ気もする。本は表紙がよく見えるように配置されており、書店というよりは「本展示場」のような感じがする。


ここはチョンドン出版社が直接運営する書店型ブックカフェだ。「本を作り、本で疎通し、本の声が聞こえる息とムードが潜んでいる場所」。チョンドンブックカフェは自身のことをこのように紹介する。18年間、地元で独立出版社を運営してきたイ・ヒョンミ代表は、読者に直接会って疎通する空間を作るため、2020年にブックカフェを開いた。独立出版社らしく、空間の片隅にはチョンドン出版社が直接作った本とグッズ、厳選した文具類が展示·販売されている。主に教育に関する本が多く、絵本、大人のための童話も見える。「出版社」をテーマにした推薦図書キュレーション展示もここだけの特徴といえる。
ブックカフェの本のほとんどは販売用で、大きく新刊、推薦図書、中古本(購入せずに読める)に分けられる。本棚のあちこちに主人が書いた書評、推薦の言葉、案内文が貼られており、ちょっとした感動を受ける。注目すべき点は地元作家が書いた本のプロモーションだが、全州全北地域で活動する作家の本を購入すると、コーヒー1杯が無料で提供される。地元の有望な作家を発掘し支援しようとするチョンドン出版社の運営哲学がうかがえる。

チョンドンブックカフェは内部が広く居心地の良い、ヒーリングしやすい場所ですでに訪問客の間で評判になっている。床は車椅子やベビーカーも出入りしやすいように敷居を除去し、全体構造は音楽公演やブックトークのようなイベントができるように細心に構成されている。大きなガラス張りの窓の外には野外テラスがあり、竹の庭が室内の風景にほのかに緑を加える。 眺めるだけでも心が安らかになる風景だ。
ここのもう一つの特長は、美味しくてきれいな飲み物とデザートだ。飲み物は飲む前に絶対に写真を撮っておきたいほどきれいにできあがって出てくる。いわゆる「インスタ映えグルメ」だ。イ·ヒョンミ代表は「カフェなんだから当然飲み物そのもので競争力がなければならない」と話した。お客さんに喜んでもらえる飲み物について常に悩み、新メニュー開発に力を入れるという。若いお客さんに人気という黒胡麻ラテを注文して飲んでみた。甘くて香ばしいが、その中に「愛の味」が感じられるのはどうしてだろうか。
お茶を飲みながら本を読んだり、公演を楽しむのに最適なブックカフェ。町内住民には最高のアジトではないかと思う。本でなくても、たまにぼーっとしやすいヒーリングスポットとしてもおすすめしたい。ストレスを受けたり疲れた時、一人で静かに読書をしたり、自分を整理するための静かな時間が必要なら一度は立ち寄ってみよう。竹の淡白な姿と花の香りがするコーヒーが心を癒してくれるはずだ。
DVDから昔の映画雑誌まで、映画に関するすべて映画マニアの夢の書斎、全州映画図書館
毎年全州国際映画祭が開かれる全州映画の街、そこにひたすら映画人のための映画人による映画専門空間がある。全州映画ホテル2階、2015年に地元のある人物が自分の映画人生を捧げて作ったカフェ兼図書館兼博物館である。 「全州映画カフェ&図書館」は韓国初の映画特化私立図書館だ。

階段を上る瞬間から異世界に入る感じがして胸がどきどきする。出入口に置かれた古い映写機が目を引く。 この35ミリフィルム映写機は日本で1970年代に作られたもので、近隣の「シネマタウン」劇場が2000年代半ばまでこの映写機を使用していたという。(全州シネマタウンは、CGVやロッテシネマのようなマルチプレックス劇場が映画の街を攻め込んでくる中で苦労して生き残った全州唯一の郷土映画館だ)
空間の内部に入ると、高くて広いホールが広がる。「パーティー」が開かれるのに良い空間だ。入口側は映画関連装置と小物などが展示された博物館になっている。製作年度が表示された古いカメラ、映写機、音響装置などが多様に展示されており、有名な映画キャラクターのミニチュア、昔の映画雑誌がノスタルジアを呼び起こす。



この空間を作ったのは2003年から2012年まで全州国際映画祭執行委員長を務めた映画人のミン·ビョンロク氏だ。彼が2015年に自分が一生集めた映画書籍と映像資料を寄贈して図書館を造成すると、彼の自発的な歩みに地元の他の映画人たちも参加して貴重な資料を出したという。 今、映画図書館には1895年に製作された世界初の映画「列車の到着」をはじめ、映像資料1万5000点余りと専門書籍3400冊余り、映画関連雑誌2000冊余りが所蔵されている。
今日、世界的な人気を集めている中高年層のトップスターや映画界の巨匠たちの若き時代が盛り込まれた雑誌を見たら懐かしくてうれしい。今は古典になった日本のアニメや名作映画の初版ビデオテープやDVD、古い映画ポスター…最新のトレンドが反映されていないが、所蔵価値の高い資料だけでも本当に貴重な空間になっている。映画の歴史とジャンルそのものを愛する人、映画人を夢見て成長したシネマキッド、過去の映画に懐かしさを持った人には天国に違いない。
残念ながら、映画図書館はコロナパンデミック以後、一般訪問客の出入りを許可していない。今は映画ホテルの利用客に限り付帯施設として使用できるというので、全州訪問を計画する方は参考にすれば良いだろう。